健康経営と超高齢社会

今回は、健康経営と超高齢社会について、今月10日に公表された、人口推計のデータを基に考えていきます。

企業活動を継続する上では、超高齢社会を把握し、「ヒト・モノ・カネ」の「ヒト」についてしっかりと対策していく事が重要です。

 

超高齢社会に向き合う

国立社会保障・人口問題研究所は、平成27年国勢調査の確定数が公表されたことを受けて、これを出発点とする新たな全国人口推計(日本の将来推計人口)を行い、 平成29(2017)年4月10日にその結果を公表しました。

10日に公表された将来推計人口では、30歳~40歳の出産率が増加し、全体の出生率の改善による人口減少の緩和傾向が示されたものの、将来にわたって人口減少が続くことに変わりは無く、人口の4割近くを高齢者が占める「超高齢社会」への備えを急ぐ必要があると示されています。

今後も人口は減少を続け、年少人口(0~14歳)は、2065年には2015年の1595万(人口の12.5%)から898万人(人口の10.2%)、生産年齢人口(15~64歳)は7728万人(人口の60.8%)から4529万人(人口の51.4%)まで減少するといった見通しが示されています。生産年齢人口の3割が減少してしまうといった状況になります。

生産年齢人口が減少ししていく時代の中で、IOTやAIなどといったテクノロジーの開発なども今後加速すると思いますが、企業が持続的な成長や、事業を継続していくためには、今後「ヒト」の確保が最も重要課題になってくることがデータから読み取れます。

出所)日本の将来推計人口(平成29年推計)の公表資料

 

生産年齢人口の生活習慣

就業者の脳血管疾患、心疾患等に等による死亡数(年齢別)

 

以前の記事、「健康経営とデータから見る脳血管疾患予防」でも紹介したデータからも、糖尿病や、高血圧など、いわゆる生活習慣病が起因となって死亡する方の、死亡数全体の約3割が45歳〜64歳の中間管理職や定年前の方となっています。企業にとって重要な管理職が就業できない状況に陥ると、企業の業績は低下することは明らかです。

以前の記事、「健康経営に関するコスト」で紹介した、休職者のコストについてある試算について、

例えば、年収500万円の社員が1年間休職したとすると、

 本人に支払う金額は583.3万円

  • 休職中の月手当(月給6万円の2/3=27.7万円)×休職期間12ヶ月333.3万円
  • 発症/試し出勤中の計6ヶ月分の給与250万円

 発生コストは941.8万円

  • 既存社員の残業代+代替社員の教育費等6万円
  • 代替社員の給与×休職期間12ヶ月500万円
  • 上司・人事の対応(月1万円)×休職期間12ヶ月25.2万円

となり、計1525.2万円がかかる試算結果もあります。

これは今現在の試算ですが、今後ますます生産年齢人口が減っていく中で、新規採用に係るコストは更に膨らむことが予想され、最悪採用できず事業を継続できない場面も考えられます。

生産年齢の生活習慣整えることは、今後の超高齢社会を向かえるにあたって、企業活動を継続するために急務であるといえます。

さらには、「健康経営とメンタルヘルス⑥」でも紹介したように、身体的に不健康な人はメンタルヘルス不調に陥りやすいといった調査結果もあります。

第61回日本職業・災害医学会学術大会で発表された、「職域における生活習慣病の現状と課題」によると、

同一の生活習慣が元で生活習慣病と精神障害をきたす、精神障害に罹患することで生活習慣の変容を介して生活習慣病に陥る、そして、生活習慣病が原因となって精神障害を呈することもある。 このように生活習慣病と精神障害は密接な関係がある。と報告されています。

具体的には、

・生活習慣病の代表格である糖尿病と気分障害との関係を調べた39の研究のメタ解析の結果、糖尿病患の11%が大うつ病性障害、その他のうつ症状を呈するものが31%存在していたことがわかり、うつ病と糖尿病との関わりの深さを改めて認識された。

・精神科外来通院患者におけるBMIや腹囲基準値からみた上半身肥満の頻度の調査研究では、BMIが25㎏/㎡以上の肥満は男性 38.6%、女性43.6%であり、精神障害患者で高頻度であった。

・ストレスが加わると、アドレナリンが放出され血圧が上がることが知られている。また降圧剤の影響では、うつ状態を誘発する可能性のある薬物もあり、症状として、悲哀感よりも、意欲低下や無気力と言った精神運動抑制症状が特徴である。

・最も病気と関連があると言われている生活習慣の1つとして喫煙がある。肺がん、慢性閉塞性肺疾患はもちろんのこと、心筋梗塞、狭心症などの心血管系や脳循環系にも影響を与えることは疑いのない事実である。この喫煙習慣であるが、不安、抑うつ状態が引き金になって喫煙が始まることが知られているように、精神障害を抱える人でよく見かけられる。

・睡眠がメタボリックシンドロームに与える影響としては、睡眠時無呼吸症、シフト勤務による不規則な睡眠、睡眠不足によって、インスリン抵抗性、腹部肥満、脂質代謝異常、高血圧に影響を与えるとの報告がある。

などといった、生活習慣がメンタルヘルス不調に寄与する関係性について述べられており、「職場の管理者はメンタルヘルスの重要性を理解し、配慮をしていくことが望まれる」、と結論づけています。

出所)日本職業・災害医学会会誌 JJOMT Vol. 62, No. 5

 

 

健康経営と超高齢社会

このような背景から、企業は社員の生活習慣やメンタルヘルスについて考え、「ヒト」を守ることへ舵を切っていく事が必要です。その一つが健康経営です。

健康経営研究会が定義している健康経営は、

健康経営とは、「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても 大きな成果が期待できる」との基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、 戦略的に実践することを意味しています。 従業員の健康管理・健康づくりの推進は、単に医療費という経費の節減のみならず、生産性の向上、従業員の創造性の向上、企業イメージの向上等の効果が得られ、かつ、企業におけるリスクマネジメントとしても重要です。

とされています。

この中で、生産年齢人口との関係を考えると、企業におけるリスクマネジメントと捉えることが出来ます。社員一人ひとりの健康に配慮し、「ヒト」を守る企業が今後、継続的な成長をかなえていくのではないかと弊社は考えます。

再掲になりますが、企業活動を継続する上では、超高齢社会を把握し、「ヒト・モノ・カネ」の「ヒト」についてしっかりと対策していく事が重要です。