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経営的な視点で従業員の健康管理を見つめる

健康経営とは従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することを意味する言葉です。

従業員の健康管理は個人の問題であり、係る支出は「コスト」である。そのように思われている方もいるかもしれませんが、健康経営では、従業員の健康管理は企業としての課題として捉え、係る支出を業績向上に向けた「投資」であると考えます。

ゆえに、健康経営に取り組むこと(従業員への健康投資を行うこと)は従業員の生産性の向上や組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されています。

また、企業各社が健康経営に取り組むことは、健康な状態で働き続ける人が増えるということであり、「社会保障費(医療費や介護費)をいかに削減するか?」という超高齢化社会の日本が抱える課題解決に貢献する期待も高まっています。

健康経営に関して関心を持っている方が、自社の健康経営の実践に向けて一歩前進いただけることを願い、本稿では健康経営の取り組みを推進する上で参考になる情報をお届けします。

目 次

■健康経営のメリット

  1. 生産性の向上

  2. 企業イメージの向上

健康経営を実践するために必要な取り組み

  1. 経営理念・方針の取り組み

  2. 組織体制の取り組み

  3. 制度・施策実行の取り組み

  4. 評価改善の取り組み

健康経営に関連する制度紹介

  1. 健康経営銘柄

  2. 健康経営優良法人認定制度

  3. DBJ健康経営格付融資

 

健康経営に取り組む企業事例

■健康経営のメリット

1. 心身の健康状態の改善


健康経営の取り組みを推進し、従業員の健康意識を高めることで、個人の健診結果の改善や生活習慣の改善が図られ、物事を前向きに考えたり、意欲的に仕事に取り組めるようになります。

また、アブセンティーイズム(病欠、病気休業の状態)の解消や、プレゼンティーイズム(何らかの疾患や症状を抱えながら働いており、本来発揮されるべきパフォーマンスが低下している状態)の解消も期待できます。

そして、健康経営の取り組みが一人一人の従業員に与える効果が、組織としての従業員満足度向上や、生産性の向上、コミュニケーション活性など組織的効果として現れます。

ニューノーマルな働き方としてリモートワークが一般化している今の時代、通勤がなくなることによる運動不足や社内コミュニケーション(雑談や挨拶)の減少などにより、心身にストレスが溜まりやすい状況で働く従業員に対して、心身の健康状態の改善を図ることができる健康経営の取り組みは、その重要性を増しています。

2. 企業イメージの向上

健康経営の取り組みは「社会保障費(医療費や介護費)をいかに削減するか?」という超高齢化社会の日本が抱える課題解決に貢献する期待も高まっており、その普及に向けて官民が協同してきた歴史があります。

例えば、経済産業省では、東京証券取引所と共同で、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定し、公表することで、企業の健康経営の取組が株式市場等において、適切に評価される仕組みづくりに取り組んでいます。

同じように、日本健康会議(民間組織が連携し行政の全面的な支援のもと実効的な活動を行うために組織された活動体)では「健康経営優良法人認定制度」により、健康経営に取り組む優良な法人を見える化することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価を受けることができる環境を整備することを目標としています。

こういった官民共同の動きに加え、近年ではSDGsの認知拡大により、働く人の健康に配慮ある企業が社会的にも支持されてきている状況もあります。

■健康経営を実践するために必要な取り組み

健康経営はキャンペーン施策ではありません(健康の改善にインパクトのある施策を短期的に走らせればそれで良いということではありません)。健康経営は全社的かつ中長期の時間軸の中で継続させる必要があります。

ゆえに、健康経営を実践するには、健康経営の取り組みが経営基盤から現場の施策までの様々なレベルで連動・連携していることが重要であり、これは「経営理念・方針」「組織体制」「制度・施策実行」「評価改善」の4つの取り組みに分けて考えることができます。

経営理念・方針の取り組み

健康経営に取り組むことは「従業員の健康という経営課題」に取り組むことと同義です。

経営トップ自らが健康経営の意義や重要性を認識し、企業として健康経営に取り組む姿勢を従業員や投資家等、様々なステークホルダーにメッセージとして発信しましょう。

その上で、健康経営の取り組みとして具体的に何をどのように実践していくのかについて、組織としての行動指針(方針)を示し、その実現に向けた取り組みを具体化させていく必要があります。

 

組織体制の取り組み

次のステップは、従業員の健康の保持・増進に向けた実行力ある組織体制の構築です。

専門部署を新設する、または、人事部などの既存部署に担当者を置くなどの対応が考えられます。健康経営の取り組み効果を高める上でも、担当者に専門的な研修を実施することが推奨されます。

また、健康経営の取り組みは全社的な取り組みです。組織を統括する経営層の全体で健康経営の取り組みの必要性を共有し、一人一人の従業員の参画・行動変容を促す必要があります。

具体的には、健康経営の取り組みの企画立案段階から、役員会での討議事項とするなどの体制を整備しておくことが重要です。CTO(最高技術責任者)やCMO(最高マーケティング責任者)と同じように、CHO(健康管理最高責任者)を選任することも効果的です。

経営トップが自らCHOを務めるのも良いでしょう(例:株式会社ディー・エヌ・エー【DeNA】|DeNA 社員の最高のパフォーマンスを引き出す健康経営の取り組み)。

制度・施策実行の取り組み

健康経営を実践する上では、前提として、自社の従業員の健康上の課題を把握する必要があります。既存のデータ(定期健康診断の結果や労働時間に関する情報など)に加えて、独自に従業員の日常的な健康や身体活動に関するデータを蓄積することで、課題を把握し、施策に落とし込みやすくなります。

例えば「健康状態の悪い従業員には食生活の乱れに問題がある共通項が見受けられる」ことが分かれば「従業員の食事の栄養バランスをどのように支援するか」といった課題が浮かび上がってきます。

評価改善の取り組み

施策は一度実行してやりっぱなしに終わるのではなく、きちんとPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを機能させる必要があります。

健康経営を実践するための経営層のコミットメントや組織体制の構築によって、PDCAサイクルを回すストラクチャー(構造)が作られている状態を前提とすると、残るは、健康経営を実践するにあたっての施策が機能しているかどうかを判断するための指標と、成果を測るための指標を定義する必要があります。


健康経営に関連する制度紹介

健康経営優良法人認定制度

健康経営優良法人認定制度とは、地域の健康課題に即した取組みや日本健康会議が進める健康増進の取組をもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する制度です。

健康経営に取り組む優良な法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価を受けることができる環境を整備することを目標としています。

健康経営優良法人に認定されるためには、毎年8月~10月ごろに行われる健康経営度調査に回答する必要があります。

「健康経営優良法人」に認定されると、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的な評価を受けられます。また、「健康経営優良法人」ロゴマークの使用が可能となります。

参考:経済産業省のWEBサイト(METI/経済産業省)|健康経営優良法人認定制度

健康経営銘柄

の健康経営度調査に回答することで、健康経営を実践するにあたって何が重視されるのか、何からどのように取り組めば良いのかが分かるようになっています。そのため、健康経営銘柄に選定されることを狙う企業はもちろん、「健康経営について興味を持ったが何から始めれば良いのか」といった課題を持つ企業も、健康経営度調査に回答する意味があります。

なお、健康経営度調査の回答企業数は年々増加していることから、健康経営に関する企業の関心が広がってきている様子がうかがえます。

<健康経営度調査の回答企業数の推移>

健康経営銘柄2015:493社(うち未上場企業0社)
健康経営銘柄2016:573社(うち未上場企業6社)
健康経営銘柄2017:726社(うち未上場企業116社)
健康経営銘柄2018:1,239社(うち未上場企業521社)
健康経営銘柄2019:1,800社(うち未上場企業941社)
健康経営銘柄2020:2,328社(うち未上場企業1,364社)

参考:経済産業省のWEBサイト(METI/経済産業省)|「健康経営銘柄」

DBJ健康経営格付融資

DBJ健康経営格付融資とは、DBJ(日本政策投資銀行)が従業員の健康配慮への取り組みに優れた企業を評価・選定し、その評価に応じて融資条件を設定するという「健康経営格付」の専門手法を導入した世界で初めての融資メニューです。

健康経営格付の普及を通じて、投資家・金融機関に対して、企業投融資への示唆・マーケットへの浸透を図ることで、社会・経済に求められる健康経営を推進する企業が評価される金融環境の整備・育成に貢献したい。DBJ健康経営格付融資には、そんな思いが込められています。

融資プロセスでは、通常の企業審査と並行して健康経営スクリーニング(健康経営格付)が実施されます。

参考:DBJ評価認証型融資(日本政策投資銀行)|DBJ健康経営格付融資

健康経営に取り組む企業事例

本稿の最後に、健康経営に取り組むイメージの解像度を高める目的で、優れた健康経営の取り組みを推進する企業事例をご紹介します。

日本水産株式会社さま

日本水産株式会社は、2016年に制定した「健康経営宣言」に基づき、従業員一人ひとりが能力を十分に発揮できるよう、また従業員とその家族のクオリティ・オブ・ライフが向上するよう、取り組んでいます。

水産会社ならではの取り組みとして、魚を食べて健康づくりにつなげる「おさかな食の推進キャンペーン」を実施。必須脂肪酸の一つで、青魚に多く含まれる「EPA(エイコサペンタエン酸)」を健康指標とし、健診で血中EPA濃度を測定しており、また従業員のEPA摂取を促進する「EPAチャレンジ」も実施しています。

毎週水曜を「No残業デー」として早期退社を促し、テレワークを導入。長時間労働や休暇取得率が低い従業員を全社表彰部署の選考対象外とするなど工夫し、労働時間の適正化と休みやすい体制づくりを積極的に進めています。あわせて、スポーツジムトレーナーによる運動セミナーなども開催し、個々の行動変容につなげています。

日本水産株式会社の健康経営の取り組みの詳細はこちら

国際石油開発帝石株式会社さま

“国際石油開発帝石株式会社は、「社員一人ひとりの心身の健康が会社の基盤」であるという考えのもと、2018年9月に「INPEXグループ健康宣言」を制定。会社・労働組合・健康保険組合が一体となって組織する「健康経営推進委員会」には産業医をメンバーに加え、連携と専門性向上を図りながら、社員とその家族の心身の健康保持・増進施策を通じて、活気に満ちた企業風土の醸成に取り組んでいます。

従業員の平均年齢上昇などに起因して健康診断の有所見者数が増加傾向にあったことから、従業員の健康意識醸成を大きな課題と位置付け、取り組みを強化。健診実施後の個別アプローチと事後確認、管理者研修などに重点的に取り組んだ結果、2018年度の二次検査受診率は2015年度比で34%上昇しました。

2019年度からは個人の日常的なアクションを促すため、健康アプリを導入。利用度のランキング化やインセンティブなど、利用拡大に向けたさまざまな施策を検討しています

国際石油開発帝石株式会社の健康経営の取り組みの詳細はこちら

日本国土開発株式会社

2018年9月に「健康経営宣言」を制定した日本国土開発株式会社は、経営トップ自らが健康管理最高責任者(CHO)となり、健康経営の推進を社内外に広く発信しています。

社長直轄の専任組織「働き方改革推進室」を中心に、健保組合や安全衛生員会、従業員組織である「コミュニケーション協議会」などが協働し、強力な推進体制でPDCAを実践しながら取り組みを進めています。

建設業界の長年の課題である慢性的な人手不足の改善に向け、IT環境整備をはじめとする柔軟な働き方の実現と個々の健康意識改革にも本格着手。健診再受診の独自基準を設け、社長名での案内状送付に加えて丹念な受診勧奨を行った結果、2018年度の二次検査受診率は、前年度の35%から92.5%へと大幅に上昇しました

日本国土開発株式会社の健康経営の取り組みの詳細はこちら

※企業事例は主に健康経営銘柄の選定企業紹介レポートを参考にしています。より多くの企業事例にご興味のある方はこちらのページより選定企業紹介レポートをご覧ください。