厚生労働省のデータによると、現在、日本人の5人に1人は、睡眠時に何らかの障害を抱えているとされています。時間が不足しているばかりか、内容にも問題があると考えられています。
しかも睡眠不足は、高血圧や糖尿病、動脈硬化といった生活習慣病の原因になるともいわれており、病気の入り口ともいえます。ゆえに、企業が従業員の睡眠に関して働きかけていくことには、健康経営の取り組みとしても十分な価値があります。
また、経済産業省が発行している『企業の「健康経営ガイドブック」~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版:平成28年4月)』では、「睡眠休養」のプレゼンティーズムコストはアルコール摂取に次いで高く、年間で1,025,418円となっており、睡眠に問題を抱える方と抱えていない方での差分金額は328,644円と肥満や運動習慣と比べて最も大きくなっています。
そこで、今回は「睡眠」に関する健康経営を実践している企業事例の紹介と睡眠と健康の関係について考えてみたいと思います。
<目次>
- 睡眠に関する健康経営を実践している優良企業まとめ
- 睡眠と生活習慣病との深い関係
- 質の良い睡眠とは
- 質の良い睡眠の実践方法
睡眠に関する健康経営を実践している優良企業まとめ
DeNA
“社員が抱える健康課題の中で、睡眠が半数以上だったことから、睡眠が社員が抱える最も大きな課題だと認識し、それから睡眠に対してのセミナーや昼寝のスペース、運動できるウェルネスエリアを設置。”
参考:従業員の健康のベースは睡眠にあり!「快眠の秘訣セミナー」実施レポート
ロート製薬
“ロート製薬では、これまでも従業員向けの睡眠セミナーなどを開催してきましたが、性別や年代、個々の状況によって睡眠の課題は異なり、思うような効果が得られませんでした。そこで、画一的な情報提供だけでなく、個々の睡眠状況に応じて、最適な睡眠改善アドバイスを提供できるプログラムを導入することで、従業員の睡眠力の向上を目指しています。”
※健康経営を実践している企業事例は、こちらのページに網羅的に情報をまとめています。ご興味があれば、是非ご覧ください。
睡眠と生活習慣病との深い関係
睡眠は私達の健康寿命の延伸にとって大切であり、睡眠障害は生活習慣病として、脳卒中、高血圧、糖尿病などとの関連が指摘されています。また、睡眠と人間について、発達した脳を持つ人間は、生きる上で、睡眠は欠かせない生理機能の1つです。 睡眠は、心身の疲労回復や記憶の定着、免疫機能の強化などの役割があります。
日本人、特に子供たちや就労者の睡眠時間は世界で最も短いと言われています。とりわけ女性は家事や育児の負担が大きいため男性よりもさらに睡眠時間が短く、平日・週末を問わず慢性的な寝不足状態にあると言えます。
※ 参考:太田美音(総務省統計局労働力人口統計室)「統計」 2006.
慢性的な睡眠不足は日中の眠気や意欲低下・記憶力減退など精神機能の低下を引き起こすだけではなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼすことが知られています。
実際に慢性的な寝不足状態にある人は糖尿病や心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患といった生活習慣病に罹りやすいことが明らかになっています。
また日本人の約2割は交代勤務に従事しています。夜勤に入ることによって、体内時計と生活時間との間にずれが生じやすくなります。
体内時計にとって不適切な時間帯に食事を取ることでも、生活習慣病の原因のひとつになると推測されています。夜間には体内時計を調節する時計遺伝子の一つであるBMAL1遺伝子とその蛋白質が活性化しますが、この蛋白質は脂肪を蓄積し分解を抑える作用を持っています。すなわち「夜食べると太る」という我々の経験は科学的にも正しかったわけです。夜勤中についつい間食をしている方にとっては耳の痛い話ではないでしょうか。
質の良い睡眠とは
質の良い睡眠とはどのような睡眠かを、厚生労働省の資料で示されている睡眠の質の評価指標から知ることができます。
1.規則正しい睡眠、覚醒のリズムが保たれていて、昼夜のメリハリがはっきりとしている
2.必要な睡眠時間がとれており、日中に眠気や居眠りすることがなく、良好な心身の状態で過ごせる
3.途中で覚醒することが少なく、安定した睡眠が得られる
4.朝は気持ちよくすっきりと目覚める
5.目覚めてからスムーズに行動できる
6.寝床に就いてから、過度に時間をかけすぎずに入眠できる
7.睡眠で熟眠感が得られる
8.日中、過度の疲労感がなく満足度が得られる
質の良い睡眠の実践方法
質の良い睡眠のためには以下のことを実践しましょう。
1.規則正しい生活
睡眠も生活習慣のひとつであり、質の良い睡眠を得るためには、規則正しい生活を送ることが欠かせません。
2.運動習慣を持つ
速歩や軽いランニングなどの運動習慣を持つことで寝つきがよくなり、深い睡眠が得られるようになります。運動は、寝時間くらい前の夕方から夜にかけて行うと、一時的に上がった脳の温度が寝床に入る時に下がってスムーズな睡眠が得られやすくなります。寝る直前の激しい運動は身体が興奮して眠れなくなるので避けましょう。
3.寝る2〜3時間前の入浴
入浴は体温を一時的に上げるので運動と同じように寝つきを良くし、深い睡眠を得る効果があります。38度のぬるま湯では25~30分の入浴、42度の熱めのお湯では5分程度の入浴、または約40度のお湯で半身浴をするのがおすすめです。体調や好みに合わせた入浴スタイルを選びましょう。
4. 朝、起床後に光を浴びる
朝、起きてすぐに太陽の光を浴びると、24時間よりも長い周期の体内時計のずれをリセットすることができます。夜は家の照明の光でも浴びると体内時計が遅れてしまいます。夜の照明はひかえめにして、朝起きたらカーテンを開けて自然の光を浴びましょう。
5.食生活
朝食はしっかりとって、日中に活動するためのエネルギーを補給しましょう。寝る前に食事をとると消化活動で睡眠が妨げられるので控えて、規則正しい食生活を送りましょう。寝る前のカフェイン摂取や喫煙は覚醒作用があり、アルコール摂取は眠りが浅くなるのでお勧めできません。
6. 昼寝を有効に利用する
午後に眠気がある場合には15分程度の昼寝をすることで夜によく眠れるようになることがあります。高齢者の場合は30分程度の昼寝がよいとされていいます。
7.室内環境を整える
室内の温度、湿度は季節に応じて適切に保たれていること、静かで暗い環境が質の良い睡眠をもたらします。寝床の中の温度は33℃前後、湿度は50%前後、睡眠を邪魔しない光と音の刺激の程度の環境を整えましょう。
8.よく眠れる寝具を選ぶ
深い眠りを保つために身体は発汗しているので、吸湿、放湿性がよく、保温性の良い寝具を選びましょう。敷布団やマットは適度に硬く、身体が沈み込みすぎないもの、掛布団は身体にフィットしやすく軽いものを選びましょう。枕は首や肩への負担が少ない自分にあった硬さ、高さで安定感のあるものがよいでしょう。
<参考>
ライター:西野大助
リハビリ専門職である理学療法士国家資格取得後、約10年富山県内の総合病院で急性期医療から回復期医療、在宅医療のリハビリに従事。その後SUDACHIに入社。パーソナル事業部の責任者を務め、主にパーソナルトレーニングや集団でのパフォーマンス指導や姿勢指導、傷病予防などの分野を担当している。また、病院在籍中から現在にかけてスポーツ分野での障害予防などにも積極的に取り組んでいる。