お酒は、古来より祝祭や会食など多くの場面で飲まれるなど、生活や文化の一部として親しまれてきました。
酒は百薬の長と言われるように、適量のお酒はどんな良薬よりも効果があると言われる一方で、過度な量のお酒は万病の元とも言われます。ゆえに、企業が従業員の飲酒習慣に関して働きかけていくことには、健康経営の取り組みとしても十分な価値があると言えます。
そこで、今回は「飲酒」に関する健康経営を実践している企業事例をご紹介します。
<目次>
- 飲酒に関する健康経営を実践している優良企業まとめ
- お酒のメリットとデメリット
- 飲んだお酒は体の中でどうなっているのか
- 適量なお酒の量とは?
- お酒との付き合い方について
飲酒に関する健康経営を実践している優良企業まとめ
キリン
“酒類を扱う企業の従業員として知っておくべき適正飲酒 に関する知識を習得し、職場内でのディスカッションを通じて改めて意識を高めるために、集合研修とオンライン研修を行っています。また、飲酒習慣スクリーニングテスト(AUDIT)を実施し、自身の飲酒習慣を振り返る機会を設けています”
資生堂
“ランチタイムセッション(LIVE配信)
社員のストレス軽減やコミュニケーションを目的として、社員の「ためになる」情報をLIVEで配信しています。腰痛、在宅太り、新型コロナウイルス対策、女性の健康、飲酒対策等様々な情報を発信しています”
参考:資生堂|社員の安全と健康
マルハニチロ
“マルハニチロ(株)では、従業員のヘルスリテラシー向上を目的とし、各種セミナーを通じて従業員の健康増進を図っています。2019年2月「マルハニチロ“ 健活” セミナー」を豊洲本社で開催し、マルハニチロ健康管理室産業医による生活習慣病予防策についての解説や、外部講師としてRIZAP株式会社のトップトレーナーを招きました。セミナー終了4ヵ月後に実施したアンケートでは、参加者100名の約70%が、セミナー終了後に「健康維持のための運動や食事を実践・習慣化した」と回答しました。さらに、「女性の健康と美容」「適正飲酒」「エイジングケア」それぞれのテーマで計3回のセミナーを実施しており、毎回参加者の半数以上が「意識が変わった」「日々の運動や食生活を見直すキッカケになった」と答え、行動変容につながっています”
※健康経営を実践している企業事例は、こちらのページに網羅的に情報をまとめています。ご興味があれば、是非ご覧ください。
お酒のメリットとデメリット
<飲酒のメリット>
・食事が美味しくなる
胃液の分泌を促進して消化を助け食欲が増すので食事が美味しくなります。
食事の前に少量のお酒を飲むことで、胃の活動を活発化し胃液の分泌量が増え、食事の消化をよくして胃もたれを防ぐ効果があります。しかし、食事中のアルコールは飲みすぎると食欲増進をパワーアップさせ、ついつい食べ過ぎてしまう恐れもあるので適量を心掛けましょう。
・疲労回復、ストレス解消
アルコールには血行を良くする働きと利尿作用があるので、適度であれば身体の代謝を高め疲労回復に役立ちます。
また、人間の疲労には大きく分けて「肉体的疲労」と「精神的疲労」の2種類があります。肉体的疲労とは疲労物質「乳酸」やエネルギー不足が原因、精神的疲労とは脳が緊張した状態が続き集中力の低下、イライラ、やる気の低下など精神面が原因とされています。
アルコールの力により血流がよくなり体温が上がって疲労感が改善され、精神面では脳内の緊張がほぐれ、仕事や悩みなどによる緊張状態から開放され、心身にリラックス効果が生まれストレスが緩和されます。
このストレス発散効果が、ストレスが原因で起こる病気の予防にも役立っていると考えられます。ただし、過度に飲みすぎるとリラックスハイになり過ぎて数々の失態をしたり、体にも悪影響を及ぼしますので気をつけましょう。
・人間関係の円滑化にするコミュニケーションツール、
お酒には、人間関係を円滑にするコミュニケーションツールとしての一面もあります。
企業社会においても、歓迎会、送別会、接待など多くの場面で必要不可欠なものです。楽しい気分を盛り上げ、人間関係を円滑にする手助けになることもあります。普段、人とコミュニケーションをとることが苦手な人も、お酒の力を借りれば楽しくおしゃべり出来たりするものです。会社の飲み会で上司や先輩と上手くコミュニケーションを図りたい人、本音で語り合いたい人にとっては、お酒は大いに役立ちます。
・睡眠効果
お酒を飲むとなぜか眠くなってしまいますよね。
寝付きにくい夜や寝つきが悪い方には寝酒は大変効果があるようです。適度な量のお酒は興奮している脳を休ませる働きがあり、リラックスして寝つきがよくなる効果がみられます。しかし、飲み過ぎてしまうと夜中に目が覚めたり、利尿作用が頻繁に働いてトイレに行きたくなったりと睡眠の妨害をしかねますので気をつけましょう。
・長寿効果
少量のお酒は心臓疾患や動脈硬化を予防する善玉コレステロールを増加させ、血管を拡張させて血流をよくしストレス解消にも繋がります。赤ワインに含まれている成分「ポリフェノール」は、抗酸化作用があり老化や動脈硬化を防ぎます。また、日本酒にも「フィチン酸」や「フェルラ酸」といった抗酸化作用の成分があり同じような効果がみられ、酒粕の中にはガンに抵抗力を持つ成分や、免疫細胞を活性化させる働きがあるといわれています。
<飲酒のデメリット>
適量以上のアルコールを摂取すると健康によくありません。
長期の大量飲酒は悪影響をもたらします。お酒を飲み過ぎると高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満、メタボリック症候群、動脈硬化症などの生活習慣病になる可能性が高いのです。そして肝臓でアルコールが代謝される際に中性脂肪が蓄積し、脂肪肝、肝炎、肝硬変といった肝機能障害になる可能性が高くなります。さらに膵臓炎、心臓疾患、脳血管障害など、多くの病気の原因になると言われています。またアルコール依存症をきたすこともあります。
これらの臓器障害は自覚症状のないままに進行してしまうので、定期健診などで早期発見、早期治療を心がけましょう。適量以上のアルコール摂取は、命に関わる恐い病気の原因になるということです。アルコールを適量以上に接種している人は、過度の飲酒を控えることで、全身の臓器を休ませてあげることが大切です。健康のためにもアルコールの害を知って適量でおさめる努力をしましょう。
飲んだお酒は体の中でどうなっているのか?
多くの人が「お酒の飲みすぎは体に悪い」と考えていると思いますが、実際、どのような影響があるのか知っている人は少ないと思います。
口から入ったアルコールは胃から約20%、小腸から約80%が吸収されます。血流に乗って全身を巡り、体内に入ったアルコールの大部分が肝臓で代謝されます。肝臓ではアルコールはアセトアルデヒドを経てアセテート(酢酸)に分解されます。アセテート(酢酸)は血液によって全身をめぐり、筋肉や脂肪組織などで水と二酸化炭素に分解されて体外に排出されます。摂取されたアルコールの2~10%がそのままのかたちで呼気、尿、汗として排泄されます。
飲みすぎると肝臓での分解が追いつかず、処理しきれなかったアルコールが血中に残り、いわゆる二日酔いとなるのです。肝臓で処理しきれないほどのアルコールが摂取されると、アセトアルデヒドの状態のままで体内に留まり、肝臓の機能障害を引き起こしてしまいます。二日酔いの症状は、まさにアセトアルデヒドが引き起こすものです。
これが続くと、次第に肝臓は炎症へと向かってしまいます。肝臓は「もの言わぬ臓器」と言われ、かなり状態が悪くなるまで症状を発することはできません。二日酔いなど明らかに体の不調を感じるような飲み方は、何も言わずとも肝臓にとって酷なことなのでしょう。
適量なお酒の量とは?
厚生労働省は「健康日本21」の中で「節度ある適度な飲酒」を以下のように定義しています。
“通常のアルコール代謝能を有する日本人においては、節度ある適度な飲酒として、1日平均純アルコールで20g程度である”
※20g(グラム)とは、大体「ビール中ビン1本」「日本酒1合」「チュウハイ350mL缶1本」「ウィスキーダブル1杯」などに相当。この数値は日本人や欧米人を対象にした大規模な疫学研究から、アルコール消費量と総死亡率の関係を検討し、それを根拠に割り出されたものです。
つまり、缶ビール350ⅿℓ を2本飲めば、適量を超え、体には害になるということです。適量には個人差があり、同じ人であってもその日の状態によって酔い具合が異なるため、一概にいうことはできません。
また高齢になると、体力とともにアルコールの代謝能力が低下していきます。短期間でアルコール依存症に陥りやすいので注意が必要です。年相応の適量を心がけることが、お酒と長く付き合う秘訣です。
お酒との付き合い方について
最後に、公益社団法人アルコール健康医学協会が推奨している、「適正飲酒の10か条」を紹介したいと思います。
1.談笑し 楽しく飲むのが基本です
2.食べながら 適量範囲でゆっくりと
3.強い酒 薄めて飲むのがオススメです
4.つくろうよ 週に二日は休肝日
5.やめようよ きりなく長い飲み続け
6.許さない 他人(ひと)への無理強い・イッキ飲み
7.アルコール 薬と一緒は危険です
8.飲まないで 妊娠中と授乳期は
9.飲酒後の運動・入浴 要注意
10.肝臓など 定期検査を忘れずに
ライター:西野大助
リハビリ専門職である理学療法士国家資格取得後、約10年富山県内の総合病院で急性期医療から回復期医療、在宅医療のリハビリに従事。その後SUDACHIに入社。パーソナル事業部の責任者を務め、主にパーソナルトレーニングや集団でのパフォーマンス指導や姿勢指導、傷病予防などの分野を担当している。また、病院在籍中から現在にかけてスポーツ分野での障害予防などにも積極的に取り組んでいる。