超高齢社会を向かえ、生産年齢人口が減少する一方で、ビジネスのスピードは益々加速し競争環境が厳しくなる現代社会では、企業における「ヒト」への投資が大きく注目されています。
「ヒト」への投資を進め、企業の生産性向上や組織の活性化は企業において最重要課題であるといえます。このような背景の中、近年、社員の健康と企業業績が密接な関係性にあるといった考え方のもとに、「健康経営」という言葉が注目され、社会的にも認知が深まりつつあります。
特に2014年からは経済産業省と東京証券取引所が、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定し、公表することで、企業の健康経営の取組が株式市場等において、適切に評価される仕組みづくりに取り組んでおり、2017年には大規模企業だけでなく、中小企業も対応とした「ホワイト500」といった制度も開始しました。 *今まで健康といえば厚生労働省が主に実施していましたが、経済産業省が主に実施していることが今までとの大きな流れの違いです。
今回は改めて、健康経営とは?健康経営のメリットとは?健康経営を実現するには?についてご紹介していきたいと思います。
健康経営って何?
健康経営研究会によると、健康経営とは、
「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても 大きな成果が期待できる」との基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、 戦略的に実践すること。
とされています。
今まで経営に対して健康といったイメージは、健全といった言葉が最も経営にあった言葉であり、運転資金や資金繰り、コンプライアンスが重視されているかなどといった健全な経営といった意味合いが強いものでしたが、健康経営でいう健康とはまさに、「社員一人ひとりが健康で、活き活きとした組織」である事を目的としています。つまり、今までの健康診断などのように、健康を管理するのではなく、企業が社員の健康について経営的視点から捉え、仕組みとして戦略的に実践し、身体的にも精神的にも社員の健康が維持増進され、結果企業業績を向上させることが目的となっているのです。
これは、WHOが定義付けしている健康の定義とも合致しています。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます(日本WHO協会訳より抜粋)。
肉体的にも精神的にもそして社会的に満たされている状態というのは、まさに「社員一人ひとりが健康で、活き活きとした組織」に合致しています。
1980年代と現在を比べてみると、高度経済成長期を支えてきた、システム化・合理化・効率に対する投資や、「24時間戦えますか?」などといった「企業戦士」などの言葉が溢れていた社会構造が、「ヒト」個人の生き方や個性などに対して注目されてきている社会構造に変化してきています。更に、生産年齢人口が減少していく日本では、企業や組織を支える「ヒト」に対しての投資が必要であり、今後、健康経営の考え方はさらに加速して普及していくことが考えられます。
健康経営のメリットは?
健康経営のメリットはどのようなものがあるのでしょうか?
企業イメージの向上
まず1つめは、健康経営銘柄やホワイト500に代表される、企業の健康経営の取組が株式市場等において適切に評価される=企業イメージが向上するといった観点です。ホワイト500といったネーミングの通り、ブラック企業と世間から認識されないことは、企業においては人材の確保につながり、且つ「ヒト」へ関心・投資を積極的にアピールできる絶好のPRとなります。
直接的コスト削減
2つめは、会社負担の医療費の削減といった観点です。健康保険を利用した場合、医療費の一部を企業が負担することになりますが、社員1人ひとりが健康で、病院に受診する機会が減少すれば、企業に係る医療負担の軽減となり直接的なコスト削減につながります。
生産性企業業績の向上
3つめは、まさに健康経営の本丸である「社員一人ひとりが健康で、活き活きとした組織」といった、生産性の向上に寄与し企業業績の向上が見込めるといった観点です。上記の病院に受診する機会が減少することは、直接的なコスト削減につながるだけでなく、受診に行く時間を仕事に従事できるといった観点から捉えると、生産性は向上していることになります。また、すでにジョンソン&ジョンソンなどが示している通り、社員1人あたり、1ドルの健康投資にたいし3ドルものリターンがあったと、社員の健康が企業業績に寄与することが様々なデータで示されているのです。さらに、社員が企業に「健康に対して気づかいされているな」と感じると、帰属意識(エンゲージメント)が高まり、離職率の低下やモチベーションのさらなる向上に寄与することも報告されています。
健康経営を実現するには?
それでは健康経営を実現するにはどうすればよいのでしょうか?
その1つの方法が、経済産業省が取り組んでいる健康経営銘柄の、客観的に健康経営を評価する仕組み「評価のための5つのフレームワークと具体的な評価指標例」を参考にし、一つ一つ実践していく事です。
具体的には、
1.経営理念・方針
• 「従業員の健康保持・増進」の位置づけ
• 経営方針などによる明文化
• 経営トップ自らによる従業員や社会への発信
2.組織体制
• 従業員の健康保持・増進の推進を統括する組織の形態
• 専門人材(産業医、保健師、看護師など)の活用
• 「従業員の健康保持・増進」の推進に対する企業経営層の関与
3.制度・施策実行
• 従業員の健康状態や取組に係る課題把握
• 従業員に対してメンタルヘルスに関する各種チェックの実施状況
• 労働時間の管理に関する制度や施策の実施状況
4.評価・改善
• 従業員の健康保持・増進を目的とした施策の効果検証の方法
• 取り組みによる健康状態や医療費、生産性等の具体的改善効果
• 効果検証を踏まえた次年度の取組改善の実施状況
5.法令遵守・リスクマネジメント
• 労働関連法令における重大な違反に係る行政指導の有無
といった5つの柱から成り立っています。
このように健康経営の評価は、かなり幅広い分野での取り組みに対して行われています。一部の社員や総務部・人事部が業務の一部として行うものではなく、経営層が声をあげて、全社を巻き込んで取り組む戦略的課題のひとつとして捉える必要があるといえます。
この5つの評価を参考に、一つずつ実践していくことが健康経営の推進と経営への貢献に寄与することになるのです。
*「健康経営 ®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です.