最近、私はケアマネージャーの研修に参加しています。研修はなんと15日間も受講しなくてはいけません。また研修自体は平日にあるため、会社を休んでいかなければいけません。会社の皆様、ご迷惑おかけしています。もうすぐで終わりますからね~。
先日の研修のテーマは『認知症の事例に対するケアマネジメント』でした。日本ではかつて、『痴呆』と呼ばれていましたが、2004年に厚生労働省によって『認知症』への言い換えを求める報告がまとめられ、高齢者介護分野において「痴呆」の語が廃止され「認知症」に置き換えられました。
認知症と言えば、私の亡くなった祖母も認知症を患っていました。そして、今思い出すと、あの時は本当に家族中が大変でした。祖母は毎日のように、自分の家にいるにも関わらず『自分の家に帰る』と、荷造りをして外に出て行こうとしていました。
そんな祖母を家族は必死で説得したり、お互い興奮状態になり喧嘩したり泣いたりで、本当に大変でした。私を含めて家族は、認知症になった祖母にどう対応していいか分かりませんでした。そもそも認知症という言葉はその当時あったのか…認知症だということも理解できていませんでした。祖母の対応に家族は心身ともに疲れきっていました。祖母も認知症の症状が進んでいきました。体も徐々に弱くなっていき、歩くこともできなくなっていきました。
今となっては苦い思い出です。あの時、もっと認知症のことが理解できていたら、適切な対応ができていたら、祖母の認知症症状を悪化させることなく、祖母も穏やかで幸せに暮らすことができたと思います。そして家族も身体的、肉体的ストレスも少なく、認知症の祖母と生活できていたのではないかといつも心のどこかで思うことがあります
さて、私の昔話はここまでとして、今回は健康と認知症について考えていきたいと思います。
認知症の定義と原因疾患
認知症の定義について、介護保険法第5条の2には、脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態と規定されています。認知症はもの忘れと初期症状は似ているため間違えられやすいですが、高齢者のもの忘れは、脳の老化による記憶力の低下であり、病気ではありません。一方認知症は脳の病気であり、早期に適切な治療を開始しないと症状が更に進んでいきます。
認知症を引き起こす原因疾患は70種類以上あると言われています。代表的な認知症はアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の4つです。
日本の高齢社会と認知症
出典・引用:高齢化の状況|平成27年版高齢社会白書(概要版) – 内閣府
2013年、65歳以上の高齢者数が推計3,186万人となり高齢化率は25.0%を超え、20年後には33.4%、2050年には人口の約4割が高齢者になると見込まれています。
出典・引用:
高齢者の健康・福祉|平成28年版高齢社会白書(概要版) – 内閣府
そして、高齢者が増加していくとともに認知症の高齢者も増加していきます。厚生労働省は2015年に、全国で認知症を患う人の数が2025年には700万人を超えるとの推計値を発表しています。また、認知症予備軍といわれる軽度認知障害(MCI)も400万人ほどいるとされています。65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症に罹患する計算になります。もはや認知症は誰もが関わる可能性のある身近な病気です。
認知症と健康寿命と平均寿命について
出典・引用:高齢化の状況|平成27年版高齢社会白書(概要版) – 内閣府
日本人の平均寿命は、男性が80.2歳、女性は86.6歳と世界でも有数の長寿国です。日本の場合、健康寿命と平均寿命の差が大きいことも、実はよく知られています。その健康寿命は、男性71.1歳、女性74.2歳になります。
健康寿命とは、WHO(世界保健機関)が2000年に発表した言葉で、日常生活において介護を必要とせず、自立して生活ができる生存期間のことを指しています。つまり、平均寿命から介護されていた年数をひいた年齢が健康寿命になります。日本人は上記でも述べたように、長寿ではあるが、人生の最後のおよそ10年もの期間、男女ともに介護が必要になっているということになります。介護が必要なケースには、さまざまな要因がありますが、認知症はそのトップ3に入る要因のひとつです。日本人に認知症が多いのは、平均寿命と健康寿命の差に影響しているかもしれません。
認知症患者の数がこれだけ増えると、国民全員が病気に対する正しい理解を持たなければ、社会生活上での混乱や周囲とのトラブル等などの社会問題が発生してきます。しかし、そう考えるなら、認知症を防ぐことが、日本人の健康寿命を伸ばし、人生の質QOL(Quality of Life)をあげることも決して不可能ではありません。
認知症高齢者の社会問題
認知症が原因で、生活上での混乱や家族や周囲とのトラブル等からいくつかの社会問題が発生しています。
家族の介護負担、高齢者虐待、介護殺人
認知症高齢者の場合には、介護者の予測や考えを超えた行為、行動が多く、対応に振り回され、介護者の身体及び精神的なストレス(介護負担)が高くなることが考えられます。介護者が献身的な介護を続けていても、その疲れや先の見えない介護を誰にも相談できず、将来を悲観し、高齢者への殺害や無理心中に至るといった悲惨な事案も毎年多く発生しています。
徘徊等により自宅に戻れない、行方不明者の増加
認知症が原因で、外出して自宅に戻れなくなり警察等に保護されることがあります。多くの場合は身元がわかり自宅に戻られますが、けがを負ってしまったり、亡くなられてしまう場合もあります。平成26年度の厚生労働省の全国調査でも身元不明者346人のうち35人が認知症の方となっています。
運転による交通事故
この頃、毎日のようにテレビで報道されていますが、高齢者による交通事故は年々増加傾向にあります。認知症高齢者では、道に迷ってしまう、駐車場に入れた車が分からなくなる、一方通行や高速道路を逆走してしまう、ハンドルやギアチェンジ、ブレーキペダルの操作ができなくなり、結果大きな事故につながってしまうことがあります。
ゴミ屋敷、孤立死(孤独死)の増加
自宅やアパートの庭やベランダ、室内にゴミが山のように積み上げられていたり、ゴミが散乱し、悪臭や異臭、害虫が発生する原因にもなる「ゴミ屋敷」が社会問題となってきています。周りが気にして医療や介護サービスを進めても拒んだり、家にゴミを放置したりしたままの状態は、「セルフネグレクト(自己放任)」とも呼ばれ、平成22年度の内閣府の調査では、全国で約1万人を超えると推計されています。
また、地域や家族からも孤立しているために、自宅やアパート内で誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当な期間放置されるような「孤立死(孤独死)」の事例が報道される場合もあります。
認知症になっても幸せな人生を送ることができる社会に
だれもが認知症にはなりたくないと思っているはずです。しかし、上記で述べたように、長生きすればそれだけ認知症になる可能性は高くなっていきます。そして高齢化が進む日本では今後も認知症が増加し続けていきます。今、私達に求められていることは、認知症や認知症の方への理解を深めていくことです。そして、認知症の方も私達も住み慣れた地域で、安心して暮らせるような社会基盤、環境整備が必要となってきます。
厚生労働省では、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指し、「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者 等にやさしい地域づくりに向けて~」(新オレンジプラン) を関係府省庁と共同で策定しています。認知症の方が住み慣れた場所で暮らせるようにするには、行政や医療機関の支援態勢の整備はもちろん、多くの人が認知症への「接し方」を知ることが大切だと思います。
健康と認知症について
認知症の方は症状が進むに連れて、運動機能や活動に対する意欲が低下し、閉じこもりがちになり、運動量も低下し廃用(活動性が低下することによって起こる肉体的、精神的な衰え)がみられるようになります。認知症の進行と廃用の進行の悪循環が生じて、運動量がますます低下していきます。
また、ご本人はもちろん、介護をするご家族などにとっても体力的、精神的負担の大きい疾患です。認知症状へどう対処してよいのかわからないという困惑、家族関係のストレス、経済的な負担、外出しても介護のことが頭から離れないなどの精神的ストレスが慢性疲労、睡眠不足といった状態が続き、健康状態の悪化を招いてしまいます。認知症は本人や家族の健康を阻害していく可能性が高いといえます。
まずは1人や家族だけで抱え込まず、認知症に関する医療・介護サービス、地域包括支援センターや保健所、近所の介護福祉施設などに相談しましょう。きちんとした知識も持つ専門家が、自力でやっていく方法、援助を申し出る方法など具体的な手段を教えてくれます。まずは認知症を正しく理解することが、本人や家族が健康を阻害せずに生活できる第一歩となります。
私たちは、認知症の方と共存する道を選び、また、認知症になった方自らも生き生きとした人生をあきらめることなく、明るく前向きに考えて、認知症の方も私達も住み慣れた地域で、安心して暮らせるような社会を一緒に創りあげていくことが大切だと思います。
健康経営と認知症予防
その他にも、認知症にならない予防がやはり重要だといえます。認知症は上述したように、一見脳の病気だと捉えられがちですが、最近の研究結果では、生活習慣病は脳血管障害を起こしやすくし、脳血管性認知症の発症に関係しているのではないかと考えられています。特に、高血圧の方は高血圧でない方と比較して、脳血管性認知症になる確率が高いと言われています。
また、2型糖尿病は、血管に障害を起こし脳血管性認知症とも関わりがあるとされていますが、アルツハイマー型認知症になるリスクも高いとも言われています。つまり生活習慣の悪化が認知症を引きおこす引き金となっているのです。
ということであれば、生産年齢からの生活習慣の見直しは必須であるといえます。そして、もし生活習慣の改善などに目を向けず、認知症になってしまう可能性があるのは定年間近になってからが始まりです。
生産年齢からの健康への投資、健康経営を始めることによって、社員の第二の人生を活気ある元気な人生へ導くことがこれからの企業には求められているのだと思います。
ライター:西野大助
富山医療福祉専門学校理学療法士学科卒業
【理学療法士】
リハビリ専門職である理学療法士国家資格取得後、約10年富山県内の総合病院で急性期医療から回復期医療、在宅医療のリハビリに従事。その後SUDACHIに入社。パーソナル事業部の責任者を務め、主にパーソナルトレーニングや集団でのパフォーマンス指導や姿勢指導、傷病予防などの分野を担当している。また、病院在籍中から現在にかけてスポーツ分野での障害予防などにも積極的に取り組んでいる。
最近結婚し、仕事でも家庭でも頑張ろうと意気込んでいる。